つれづれ

徒然:檸檬

檸檬(レモン)ですぐに思い出すのはお茶の水の聖橋と昌平坂学問所跡です。

浅草から赤坂見附までは約10kmです。会社への行き帰りに何回も歩いたことがあります。歩きで1時間半くらいで、寒い季節なら、汗をそうかかないですむ距離です。今から桜が咲きはじめる頃までが一番いい時期です。

近道は、上野駅から秋葉原の裏側を褄恋坂の交差点に出て、昌平坂学問所の横から聖橋を渡り、千鳥ヶ淵から246号線に出て行くコースです。英国大使館前まで来ると、いつもなぜか、とてもホッとします。英国大使館の立地がいいのは、明治政府とのつながりが深かったからなのでしょうか。

皇居のまわりは良く整備され、警備も厳しいです。しかし、ここでは、多くのランナーが我先にとばかりに歩行者の横を駆け抜けて行きます。たいがいは迷惑そのものです。1周5kmだけでリタイヤなのに、すごい勢いで走って行くのは、田舎者丸出しです。それで、反対まわりはマナー違反なんて、わかったようなことを言っている場合ではありません。

反時計回りが多くなった理由は、千鳥ヶ淵の下り坂の方が楽だからでしょうね。いっそのこと、時計回りに改め、イヤホン禁止にしたら、半分くらいはいなくなるのではと思います。

千鳥ヶ淵を行くコースに比べて、お茶の水駅から日本橋に出て、銀座、新橋、虎ノ門のコースは平坦で走りやすいです。しかし、このコースを走っている人はあまり見かけたことがありません。地名から言ってもランナーには不釣り合いです。

聖橋は、さだまさしの檸檬に出て来るお茶の水駅の近くにかかっている橋です。この歌詞は、梶井基次郎の短編小説「檸檬」をもとにしているそうですが、出だしは高村光太郎の「レモン哀歌」に似ています。

レモン哀歌  高村光太郎

.そんなにもあなたはレモンを待つてゐた
かなしく白くあかるい死の床で
私の手からとつた一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
あなたの咽喉に嵐はあるが
かういふ命の瀬戸ぎはに
智恵子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた
それからひと時
昔山巓でしたやうな深呼吸を一つして
あなたの機関ははそれなり止まつた
写真の前に挿した桜の花かげに
すずしく光るレモンを今日も置かう

.

檸檬  さだまさし

あの日湯島聖堂の白い石の階段に腰かけて
君は陽だまりの中へ盗んだ檸檬細い手でかざす
それをしばらくみつめた後で
きれいねと云った後でかじる
指のすきまから蒼い空に
カナリヤ色の風が舞う

喰べかけの檸檬聖橋から放る
快速電車の赤い色がそれとすれ違う
川面に波紋の拡がり数えたあと
小さな溜息混じりに振り返り
捨て去る時には こうして出来るだけ
遠くへ投げ上げるものよ

君はスクランブル交差点斜めに
渡りながら不意に涙ぐんで
まるでこの町は青春達の姥捨山みたいだという
ねェほらそこにもここにも
かつて使い棄てられた愛が落ちてる
時の流れという名の鳩が舞い下りて
それをついばんでいる

喰べかけの夢を聖橋 から放る
各駅停車の檸檬色がそれをかみくだく
二人の波紋の拡がり数えたあと
小さな溜息混じりに振り返り
消え去る時には こうしてあっけなく
静かに堕ちてゆくものよ

IMG_0176上野公園

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