つれづれ

徒然:野尻湖

・・・何を考えているの?

・・・なんにも。(アンドレ・ブルトン)

野尻湖の写真を眺めていたら、急に長い夢から覚めたときのように、そこに島があったことを思い出しました。大学4年の夏、民宿でゼミ合宿したときの話です。琵琶島まで竹内さんとボートを漕いで行きました。今でもさざ波の向こうに見えた岸辺と黒姫山の景色が目に浮かびます。

夜、民宿の冷蔵庫から酒を取り出し、湖のほとりに輪を作り、みんなで酔っ払うまで飲み、歌を歌い、罰ゲームをしました。ひとつひとつは夢と同じでまるで脈絡がありません。黒姫山の麓のスキー場も、一茶記念館も、まるで脈絡のないスライドの一枚です。

それでさらに辿っていくと、初台から新宿まで歩いて行く道すがら、赤のチェックのワンピースとロングヘアが風に何度も揺れ、その度にアンドレ・ブルトンの壮大なことばが宙を舞ったはずなのに、いつの間にか、何事もなかったかのようにすべては失われていました。

みんな、私が彼女と結婚するものだと思っていましたが、そんなことを話したことも望んだこともなく、当然、そうなりませんでした。3月、雪がちらつく中、上野駅で米沢に帰るのを見送りました。ずっとあとから「なごり雪」を聴いたとき、同じ光景が繰り返し目前に浮かびました。

舞う雪が次々に消えて行き、列車はホームから出て行きました。そして、再び戻って来ることはありませんでした。2年後、ソルボンヌ大学に留学したと伝え聞きました。しかし、それが最後の知らせで、それからは次々に年が年を重ねても、もうどんなつながりも見出せませんでした。

人生はとても不思議です。今でもまるできのうのことのように思い出せるのに、今では、思い出して信じるしかありません。

ひとつだけ思い出すことばがあります。

彼女は目の覚めるような美人で、神田の古本屋をふたりで歩いると、多くの男たちが声をかけてきました。

そのことを話すと、「あなたは馬鹿じゃないの。綺麗な人を見たことがないの。」と卒ない返事が戻ってきました。思い出せることばがこれしかないことが少し残念な気がします。そういえば、ペン先の太いシェーファーの万年筆で書かれた手紙はどこに行ったのでしょう。

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